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ホーム > しんきん経済レポート > 2011年No.12 円高と産業の空洞化

円高と産業の空洞化

歴史的な円高水準が続いている。円高には輸入品や海外旅行が割安になるというメリットもあるが、日本からの輸出産品の採算が悪化するデメリットもある。輸出型製造業が集積する浜松地域にとっては、「円高=景気に悪影響」といえよう。

下のグラフは、静岡新聞に「産業の空洞化」という用語が掲載された記事の件数をまとめたもの。1990年以降、大きな3 つの山がある。最初の山は1995年前後。東日本大震災以前の円最高値を記録した頃と重なっている。2 つ目の山は、2000 年代前半。この時は対ドルでみると円安(1 ドル120 円前後)だったが、中国が圧倒的な人件費の安さを背景に「世界の工場」として台頭してきた。そして今回の円高局面が3つ目の山の上り坂となっている。国内製造業の競争力低下懸念が高まると、「産業の空洞化」に関する記事が多くなり、その大きな要因の一つが円高といえる。

今回の産業空洞化懸念は、過去の懸念とは大きく異なる。過去は海外生産シフトが進んでいったとはいえ、「高付加価値製品は国内。労働集約的な仕事は海外へ」という棲み分けができていた。しかし近年は、品質の差があまりなくなり、市場が拡大する国で生産する「地産地消」が主流になりつつある。さらには、円高に加え、高い法人税、自由貿易協定の遅れ、電力供給不足など、国内でのものづくり環境は悪化している。

そのため、仮に為替が円安に戻ったとしても、地元企業の海外生産は拡大していくだろう。ただし、海外生産を拡大させるには、国内の基盤がしっかりとしていることが大前提。浜松地域が技術革新や世界生産の中核拠点となるような産業施策が求められる。

グラフ:ビール系飲料、浜松市の消費動向

(備考)「日経テレコン21」で「産業の空洞化」を検索。2011 年は8 月14 日までの結果
本稿は9 月1 日静岡新聞「目で見る浜松経済」掲載予定です。
静岡県西部地域しんきん経済研究所とは遠州信用金庫と浜松信用金庫が共同で設立したシンクタンクです。

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